RESEARCH THEME


地域の固有の風土を基盤に創り出された景観は、自然と人間との相互作用の歴史を表す文化的産物である。歴史と文化に根ざした景観の持続・再生を図る一方で、地域課題の解決と人々の未来への意志や目指すべきヴィジョンに基づいた、地域づくりの戦略と空間のデザインが希求される。地域戦略のなかで求められる空間のありかたやその実現方策はさまざまであり、コミュニケーションとプロセスを尊重した丁寧かつ創造的な空間づくりと、それを実現するための仕組みづくりが求められる。この認識の上に、地域固有の風土、その歴史的・文化的特質を生かした総合的な地域づくりのあり方、<地域-空間-人間>系のシステムの再構築の方法を探っている。なかでも、景観の保全・再生、地域デザインー地域の再生・活性化と空間デザイン、に関する研究に取り組んでいる。


 景観の保全・再生論  Cultural and Historical Landscapes Studies

地域の景観は自然と人為(社会)の相互作用の結果、歴史的・文化的に形成・蓄積された総体としてあらわれる。これら地域の固有の風土に基づき形成された文化的景観の特質を、その成り立ちや形成要因から解明する。研究対象として、歴史的な集落や景観地、都市の公園や緑地、水辺などを取り上げ、生業・生活や産業、都市計画やインフラ整備と景観形成の関わりを明らかにする。
また、地域主体に着目した景観の意味・価値の評価、景観を成り立たせている社会的構造の評価を行い、景観形成のシステムの読み取りや、持続・変容のメカニズムの検討を通じて、景観を手がかりとした地域再生の可能性や、地域づくりの方策を探る。


 地域デザイン論 ―地域の持続・再生とまちづくり  Sustainable Community Design

持続可能で自立的な生活圏-生活空間の実現を目的とした、文化資源の活用と再生、観光開発と持続的な資源管理、これらを総合したイノベーティブな地域戦略の立案の方法を探る。なかでも、道路や公園等の既存インフラや公有地・未利用地の機能転換、整備活用、公民連携の事業デザイン等を通じた都市・地域システムの再編可能性や、デザインと実現手法を探る。また、地域がそこに住む人々にとって様々にかつ固有に知覚されることを前提として、地域のアイデンティティやイメージアビリティ、場所への愛着や帰属を高めつつ、地域景観の担い手を育てる参加型景観マネジメント手法を探求する。
さらには、フィールド学習やデザイン実践を通じて、地域戦略の立案や、都市拠点やインフラ施設の景観整備の新たな計画手法を模索するとともに、ローカル・コモンズの再生・創造を目的としたコミュニケーションベースの地域の空間デザインの技術開発と実践理論の構築を行う。


 参考図書 

学部生(1-3年生)向けリーディングリスト *ただし教科書等は除く
(景観設計学分野への配属を希望する学生さんは、配属前に読み進めておいてください)
※良書を読むコツは「悪書を読まない」ことです。若いうちにこそ古典をじっくり読んでください。

○都市/計画の歴史
「民俗のふるさと」 宮本常一 河出書房新社 1964
「町のなりたち」日本民衆史5 宮本常一 未来社 1968
「東京の空間人類学」 陣内秀信 筑摩書房 1985
「都市へ ―シリーズ日本の近代10―」鈴木博之 中央公論新社 1999
「日本の近代化と社会変動」富永健一 講談社 1990
「空間・時間・建築 <2>」 ジークフリート・ギーディオン 丸善 1969
「都市デザイン―野望と誤算」 ジョナサン バーネット 鹿島出版会 2000
「日本近現代都市計画の展開―1868-2003」 石田頼房 自治体研究社 2004
「都市美―都市景観施策の源流とその展開」 西村幸夫ほか 学芸出版社 2005
「日本公園緑地発達史」(上下巻) 佐藤昌 都市計画研究所 1977
「ランドスケープデザインの歴史」 武田史朗ほか 学芸出版社 2010
「「都市計画」の誕生」 渡辺俊一 柏書房 1993
「復興計画」越沢明 中央公論新社 2005
「東京都市計画物語」越澤明 筑摩書房 2001
「都市と緑地―新しい都市環境の創造に向けて」石川幹子 岩波書店 2001
「アメリカ都市計画の誕生」 ジョン・A. ピーターソン 鹿島出版会 2011

○風景/景観
「風土 人間学的考察」 和辻哲郎 岩波書店 1935初版
「景観の構造―ランドスケープとしての日本の空間」樋口忠彦 技報堂 1975
「花鳥風月のこころ」 西田正好 新潮社 1979
「風土と建築」 宮川英二 彰国社 1979
「農の美学」 勝原文夫 論創社 1979
「風景学入門」 中村良夫 中央公論社 1982
「空間の日本文化」 オギュスタン・ベルク 筑摩書房 1985
「日本の風景・西洋の景観」 オギュスタン・ベルク 講談社 1990
「日本人の心の歴史」上・下 唐木順三 筑摩書房 1993
「風土としての地球」 オギュスタン・ベルク 筑摩書房 1994
「日本空間の誕生―コスモロジー・風景・他界観」阿部一 せりか書房 1995
「借景 日本の美術 No.372」 本中眞 至文堂 1997
「瀬戸内海の発見−意味の風景から視覚の風景へ」西田正憲 中央公論新社 1999
「日本の文化的景観―農林水産業に関連する文化的景観の保護に関する調査研究報告書」文化庁文化財部記念物課 2005
「都市をつくる風景」 中村良夫 藤原書店 2010
「世界遺産の文化的景観 保全・管理のためのハンドブック」World Heritage Papers26 国立文化財機構奈良文化財研究所 2015
「地域のみかた−文化的景観学のすすめ−」文化的景観学検討会編著 国立文化財機構奈良文化財研究所 2016

○地域/都市/空間
「都市のイメージ」 ケヴィン・リンチ 岩波書店 1967
「知覚環境の計画」 ケヴィン・リンチ 鹿島出版会 1979
「実存・空間・建築」 ノルベルク・シュルツ 鹿島出版会SD選書 1979
「見えがくれする都市―江戸から東京へ」 槙文彦ら 鹿島出版会 1980
「意味の環境論」瀬尾文彰 彰国社 1981
「空間の経験」 イーフー・トゥアン 筑摩書房 1988
「場所の現象学 没場所性を越えて」 E.レルフ 筑摩書房 1991
「トポフィリア」 イーフー・トゥアン 筑摩書房 1992
「ゲニウス・ロキ」 ノルベルク・シュルツ 住まいの図書館出版局 1994
「環境の哲学」 桑子敏雄 講談社 1999
「コモンズからの都市再生」 高村学人 ミネルヴァ書房 2012
「サステイナブル・コミュニティ」 川村健一ほか 学芸出版社 1995
「都市田園計画の展望―「間にある都市」の思想」 トマス ジーバーツ 学芸出版社 2006
「IBAエムシャーパークの地域再生」 永松栄 水曜社 2006
「コンパクトシティの計画とデザイン」 海道清信 学芸出版社 2007
「ランドスケープ・アーバニズム」 チャールズ・ウォルドハイムほか 鹿島出版会 2010
「コンパクト建築設計資料集成 都市再生」日本建築学会編 丸善出版 2014
「持続可能な地域のつくり方―未来を育む「人と経済の生態系」のデザイン」筧裕介 英治出版 2019

 など